相続コラム

相続や遺産分割などで必要となる書類や情報とその収集で注意すべき点とは?

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相続が発生したとき、遺産分割その他の事件に対応するにあたっては様々な書類を集めなくてはなりません。しかし、ご家族を亡くされた悲しみと相手方との争いの中で、日々の仕事や生活の合間を縫って書類集めをすることは相当なストレスを伴います。
ここでは、相続に関係してどのような書類を集めるべきなのか、弁護士が代理人として関与することでどのようなメリットがあるかを解説します。

この記事の内容

相続人確定にあたっての必要書類

相続にあたっては、まず「誰が相続人なのか」を確定させなくてはなりません。相続人となるのは配偶者、子(第1順位)、父母または祖父母などの直系尊属(第2順位)、きょうだい(第3順位)となっており、具体的なケースによってさまざまです。

相続人確定のためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本(除籍謄本、原戸籍謄本を含む)が必要となります。これらは市役所または町・村役場の戸籍課で取得することができます。1通あたり数百円程度の手数料が必要となり、場合によっては複数の役場に手続をしたり、取得費用の合計が数千円以上に及んだりすることもあります。この調査によって、これまで知らなかった相続人の存在(被相続人と元配偶者との子ども(半血きょうだい)などが典型的です。)が明らかになることもあります。

これらの戸籍謄本は、ここで説明する書類の取り寄せにあたって、被相続人と相続人の関係を証明する資料として提出を求められることが多くあります。毎回戸籍謄本を取り寄せる手間も大きいので、戸籍が一通りそろったところで法務局において法定相続情報一覧図を作成しておくと、毎回戸籍謄本を提出する手間が省けるというメリットがあります。

そのほか、調停や審判の申立てにあたっては、相続人全員の戸籍謄本や住民票が必要になります。

被相続人の遺産内容や情報を調べる

誰が相続人なのかが確定したら、次は「遺産として何があるのか」を確定させる必要があります。以下、主だったものに関して探索ないし資料収集について説明します。

①現金

被相続人が保管していた現金については、自宅や貸金庫などを探索して調べることになります。被相続人名義の預貯金口座から相続人の一人が引き出して手元に残っている現金もここに計上します。

②預貯金

預貯金については、被相続人名義の通帳があればそれを記帳して相続開始日当時の残高を確認することになります。キャッシュカードや金融機関からのお知らせのお手紙なども手掛かりとなります。各金融機関から残高証明書を取り寄せる方法もあります。

どこに口座があるかはわかるが通帳が手元にない、相続人の一人が勝手に引き出した疑いがあるなどで調査の必要がある場合、10年間さかのぼって口座の入出金履歴を取り寄せることとなります。この入出金履歴からほかの口座の存在が判明したり、不自然な引き出しや使途不明金が発覚したりすることもあります。

大半の金融機関では入出金履歴の保存期間が10年となっており、それよりも前の履歴に関しては現物の預貯金通帳がない限り調査は困難となる点に注意が必要です。

③不動産

不動産の存在に関しては、法務局で全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)を取り寄せます。どこにどんな不動産があるかわからない場合、役所で名寄帳を取り寄せると所有する不動産一覧が載っているので、これをもとに全部事項証明書を取り寄せることとなります。ほかにも、市町村役場から発行される固定資産税納税通知書、法務局の公図、全部事項証明書に記載されている共同担保目録などから不動産の存在を調べることができます。

不動産の価額に関係する資料としては、役所にて固定資産税評価証明書を取り寄せる、インターネット等で路線価を調べる、民間の不動産会社に依頼して査定書を取り寄せるなどの方法があります。

④有価証券

株式などの有価証券がある場合、通常は証券会社を通して取引を行っている場合が多いので、証券会社からのお手紙、被相続人が使用していたパソコンやスマートフォン内の履歴から存在がわかる場合があります。そのうえで、当該証券会社に残高証明書などの発行をお願いすることとなります。株式等の口座開設先については、株式会社証券保管振替機構(ほふり)に対して照会をかけることもできます。

⑤保険

たとえば死亡保険金を相続人の一人が受取人に指定されて受け取っている場合、原則としてその保険金は遺産分割の対象とはなりませんが、例外的に特別受益として計算の対象に含めることがあります。また、約款などで受取人が相続人全員と指定されていることがあります。このため、被相続人が保険契約者および被保険者となっている保険契約については確認をしておく必要があります。

被相続人がどの保険に入っていたかについては、自宅に保管されている保険証券や、自宅に届く保険料支払いのお知らせなどを調べる必要があります。預貯金口座からの保険料引き落としで保険契約の存在がわかる場合もあります。

⑥債務

債務は直接遺産分割の対象となるわけではありませんが、債務額によっては相続放棄を検討すべき場合もありますし、遺産分割にあたっても債務の存在・内容について考慮を要することが少なくありません。

被相続人の自宅にローン契約書、償還予定表、支払いの催促に関する連絡などがないか確認してみましょう。どこに債務があるかを概括的に調べるには、CIC、JICC、全銀協などの信用情報機関に対し情報開示を行う方法もあります。

金融機関からの借り入れは以上の方法で調べることができますが、個人からの借り入れについてはこの方法ではわかりません。そのため、被相続人の自宅内に個人からの借入れに関する資料(借用書、領収書、返済を求める郵便物、メールやSNSでのやりとりなど)がないかの確認が必要となります。

遺言があるかを調べる

被相続人が遺言を残しているかどうかも、相続に影響を与える要素です。被相続人が相続人の知らないうちに遺言を残していることも珍しくないことから、遺言があるかどうかを調査することは大変重要となります。

まず、公正証書遺言があるかどうかについては、平成元年(1989年)以降に作成された分については、公証役場にて検索をかけてもらうことができます。被相続人の最後の住所地や相続人の住所にかかわらず、全国どこの公証役場でもこの手続を取ることができます。

次に、法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言がある場合は、法務局に対して遺言書の内容の証明書を交付するよう請求することによってその内容を知ることができます。こちらについても、全国どこの法務局でも手続ができます。

問題は、遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合です。これについては、被相続人の自宅や貸金庫内を探索することとなります。ここで見当たらない場合は、遺言がないものとして手続を進めることとなります。また、遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所における検認の手続が必要となる点にも注意が必要です。ここでいう検認の手続は、自筆証書遺言の存在と内容を家庭裁判所で確認し、以後の改ざんを防ぐというものであって、自筆証書遺言が有効か無効かを判断するものではありません。

相続トラブル類型別の収集資料

①特別受益

相続人の一人が被相続人から婚姻、養子縁組、生計の資本として生前贈与を受けていた場合、特別受益として持ち戻しの対象となります。

特別受益の有無や内容を調べるため、贈与関係の書類(贈与契約書、被相続人から相続人の一人への多額の振込履歴など)を集めることが考えられます。

また、相続人の一人が死亡保険金を受領している場合、その死亡保険金が特別受益として持ち戻しの対象になる可能性があります。これに備えて、被相続人を保険契約者とする保険契約についても一通り調べておく必要があります。

②寄与分

相続人の一人が被相続人の財産の増加または減少防止に特別の寄与をした場合は、寄与分が認められます。

療養看護型の場合、単なる扶養義務の履行を超えて、被相続人の身上監護およびそれに関連する費用支出を相続人の一人が一手に引き受けていたことがわかる資料(施設利用に関する契約書、治療費や施設利用料の領収書、相続人の口座からの支払がわかる取引履歴など)が必要となります。

金銭等出資型の場合、通常の扶養義務を明らかに超える形の金銭出資があることを証明する必要があるため、大口の金銭や不動産などの無償贈与に関する資料(贈与契約書、不動産全部事項証明書など)が必要となります。

③遺言無効確認

被相続人が作成した遺言に関して、遺言無効確認訴訟が提起されることがあります。これには、そもそも自筆証書遺言が被相続人の手によるものではない疑いがある場合もあれば、当時被相続人が遺言を作成できる状態になかった疑いがある場合もあります。

まず、自筆証書遺言で被相続人本人の手によるものではない疑いがある場合は、明らかに被相続人本人の筆跡であるとわかるものを集めることになります。たとえば、事件とは関係なく被相続人本人が手書きで作成した日記、手紙、はがき、ノートなどを証拠として収集し、これと自筆証書遺言の筆跡を比較し、場合によっては筆跡鑑定を行うこととなります。

次に、遺言作成当時被相続人が遺言を作成できる状態になかった疑いがある場合、つまり遺言能力がなかった疑いがある場合です。遺言能力の有無を判断するにあたっては、たとえば以下表の資料を検討することが必要となります。公正証書遺言の場合はこれ以外に、作成したい遺言の内容を公証人に対して口頭で伝える手続(口授)が適法にされたかどうかも問題となります。

文書の種類 取り寄せ先
医療費明細書、レセプト、診療報酬明細書、調剤報酬明細書、訪問看護療養費明細書等 国保の場合は都道府県市区町村、社保の場合は協会けんぽなどの医療保険情報の個人情報開示対応部署
診療録、カルテ、手術記録、検査記録、看護記録、画像データ、知能テスト結果等 各医療機関
介護認定時の主治医意見書、要介護認定調査票、要介護認定結果通知書等 市区町村の個人情報開示対応部署
介護サービス計画、介護記録、ケース記録、施設利用契約書、介護利用契約書等 居宅介護支援事業所、デイサービス、老人ホームなどの介護事業所

④使途不明金

相続人の一人が被相続人の預金を不正に引き出した場合、不正に引き出された金額について相続分の限りで不当利得返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求ができることがあります。

使途不明金がいくらあるかについては、被相続人のすべての口座について取引履歴を取り寄せる必要があります。開示ができるのはおおむね10年分に限られ,それ以上昔のものは通帳の現物などが必要となります。

これらの取引履歴がそろったら、口座間の入出金の流れを解析し、実際に出て行っている金額がいくらであるかを確定します。

逆に、出て行ったお金が実際に被相続人のために使用されたなどの事情がある場合は、出金の領収書などで証明することとなります。また、被相続人自身あるいは被相続人が扶養義務を負う家族の生活費に使われたとの反論がありうるので、そのような場合は厚生労働省などで開示している世帯生活費の平均値などを調べておくこととなります。

相続トラブルの資料収集における弁護士介入のメリット

相続トラブルが発生した際、当事者でも必要な情報にたどり着くことが難しいことも多くあります。例えば、「被相続人の遺産全容がわからず、状況を把握している相続人が情報を提供せず隠そうとしている」、「被相続人の預貯金が使い込まれており、被相続人の預金通帳を管理している相続人が情報開示せず全貌がわからない」など、状況の打開が厳しい局面において、弁護士が介入することで情報収集が可能になることもあります。

弁護士のみが利用できる資料収集手続がある

相続トラブルにおいて弁護士が介入した場合、弁護士のみが利用できる資料収集手続があることが最大のメリットとなります。

たとえば、弁護士は自分が受任した事件の解決にあたって必要があるときは、必要事項を証明することによって、役場から他人の戸籍謄本ないし住民票を専用の手続にて入手することができます(「職務上請求」といいます。)。

また弁護士は、受任した事件について必要があるときに、弁護士会の審査を通して関係各所に必要事項の照会をかけ、回答を受領したり回答に代えて資料を受領したりすることができます。これは弁護士法の条文にちなんで23条照会と呼ばれます。

裁判所での手続の場合(主に訴訟の場合)、相手方ないし第三者が有していると考えられる資料に関して相手方ないし第三者の任意開示が得られない場合は、裁判所に対して文書送付嘱託ないし調査嘱託の申立てを行うことができます。民事訴訟法に基づいて文書提出命令申立てを行うこともあります。

資料収集のストレスから解放される

先にもお伝えしましたが、紛争の渦中にある相続人にとって、自分で多数の資料を集めるというのは相当なストレスを伴います。弁護士が代理人として行うことでこうしたストレスからは解放されますし、資料開示の手続もよりスムーズになることが期待できます。

事実私も相続人の代理人として活動した事案で、相続人本人が資料開示をしたところ個人情報を盾に断られたのに、私が代理人として開示のお願いをしたところあっさり応じてくれたということが何度かありました。

相続で必要書類をスムーズに収集するには

これまで相続事件関係で集めるべき書類及びその方法についてご紹介してきました。もちろんご自身で集めることも可能ですが、日々の生活の合間を縫ってこれらの書類を集めるのは大変な労力がいるところですし、事実上開示を拒否されて先に進めないといった事態になることも珍しくありません。

弁護士が代理人として書類の収集にあたることで、収集自体がスムーズに進む可能性があるだけでなく、証拠集めのストレスからも解放されることとなりますので、相続に関する書類や情報収集で行き詰まったときは、弁護士に相談することもひとつの方法として認識しておくとよいでしょう。

遺産分割・遺留分のトラブルは弁護士へご相談ください

初回相談は無料です

この記事の監修

谷 靖介

Yasuyuki Tani

  • 代表弁護士
  • 東京法律事務所
  • 東京弁護士会所属

遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。

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